その昔、ザイフェンは錫の豊富な鉱山として栄えていました。
坑道の入り口には、守り神の天
使が飾られていたそうです。
深い奥底の採掘現場に向かう鉱夫たちは、
毎朝、天使の前で事故から我が身をお守りくださいと、
祈りをささげながら、現場に向かったのです。
真っ暗な坑道の中で一生の大半を過ごす坑夫たちとっては、
「明かり」は特別な意味を持っていました。
天使と鉱夫が明かりをともすモチーフは、
深い祈りが込められているんですね。
ミューラー社は1899 年創業。
今ではザイフェンを代表するおもちゃ工房です。
私たちを迎えてくれたのは、4 代目、リンゴ・ミューラー社長。
最新の加工技術を導入し、伝統と近代化を調和させています。
まず、ミューラー社長が強調していたのが、製品の安全に対する責任。
ミューラー社では、材料である木材の買い付けから最終工程、製品の出荷まで、すべてこのザイフェンの工場内で一貫して行っています。
先代の社長、ギュンター・ミューラーさんは今も現役のマイスター(職人)です。
半世紀以上、ミューラーの美しいクリスマス・ピラミッドや、アーチをその手で作り出してきました。
現在のミューラー社の製品は、すべてギュンター・ミューラーさんのデザインです。
材料に使われている木の種類はなんと35 種以上、パーツは一万種以上にもなるんです。
- 天使の王冠の美しいこと!
クリスマス・ピラミッドやアーチは、着色されていないんですよ。
木本来の美しさ、つまり自然のもの = ナチュラルカラーに強くこだわっているんです。
パーツの色の違いは、天然の木の色の違いによるもの。彩色はせずに、なんとニスだけで仕上げているんです。
案内の間ずっと傍らで、
一緒にお父さんの話を聞いていてくれた社長の息子さん。
人なつっこい笑顔がすごく印象的でした。
先代から引き継がれたように、彼にこのすばらしい工房が引き継がれる日が来るのを楽しみにしています。 取材:藤田紀子 2007年6月
ギュンター・ミューラーさんは、この訪問の後、天に召されました。
その作品は今も世界中で人々に愛され続けています。